子供の頃の玩具で、「円形の板に鉛筆の先を突っ込んで、大きな丸穴の内側でぐるぐる回して絵を描く」というものがあった。確かそれで幾何学的なおもしろい図形が描けたような記憶がある。
ふと「あの図形はレースのドイリーに似ているんじゃなかろうか」と思ったのが半年くらい前のこと。
100均には「懐かしい」と感じるものがたまにあるので、もしかしたら、と探してみたら見つかった。
初めてこれを使ったとき、使い方を誰かに教わったのだろうか。さすがにそこまでは覚えていない。少なくとも今の自分は冒頭に書いた動作は記憶にあるものの、板と穴を見比べてみると「どうすれば鉛筆の先を入れたままで回せるのか」と思ってしまった。 説明書きを読んでみても、まず外周を穴に添わせたままで板を動かしていくのはわかる。しかし板に空いた小さな穴は板の中心以外にも空いており、中心なら問題なく動かせても、端の方にある穴に鉛筆の先を入れると外周に添わせて移動するのは難しいのではないだろうか。要するに、支点が移動する状態で一定の方向に動かすのは簡単ではないと思ったのだ。 まあでも、子供は苦労なく遊ぶわけで……と思いながら、そのへんにある余白に描いてみる。
垂直に鉛筆を立てたものの、説明書きのようにはいかない。小指で支えながら反時計回りに板を動かしていく。鉛筆の位置は板の端に近い穴なので、支点が移動しまくって大変に不安定だ。 しかも何回ぐるぐるやれば完成なのかすらわからない。いったん鉛筆を離してしまったら、きれいに線をつなげて再開するのはおそらく難しいだろう。かといって二重に線を引いたらそこだけ太くなるので、きっちり始点で終わらせるのが望ましい。が、始点がどこなのかもうわからない。
たぶん子供の頃はこんなにあれこれ考えず、ただ勢いだけでぐるぐる回していたような気がする。そうじゃなければおもしろくないだろう。
ともあれ、40年以上ぶりに描いたものがこちら。
……スゲエおもしろい。 線が重なって太くなった部分があるのはもはやどうでもよくなり、板を替えたり鉛筆の先を入れる穴を替えたりしながら更に描く。
左上は失敗作ではなく、線が微妙に位置を変えながら重なり合っている。図形に関する知識がないので何故こうなるのかわからないけれど、もっと細い線で描いたらおもしろそうだ。 鉛筆を入れる穴の位置が変わるだけで中心の空白の大きさや線の重なり具合が変化し、できあがったものは似ているようで似ていない。なるほどこれはおもしろい。
と、当初の目的を忘れて没頭してしまったが、右下のデザインなどは中心部分がとてもレース的に見える(取って付けたような意見だ)。右上も、前段のくさり編みの中央を束に拾うことを繰り返して編んだような形状で、かと思えば左下は、線を減らせばタティングレースのデザインに近くなりそうに思える。
まあ、ただそれだけの話だ。
発想力があればこれを元にドイリーのデザインなりなんなりを考えられるのだろうが、いま自分がこの図形によって惹起されたのはレースのデザインではなく、どのように支点が移動してこういった形状の線が描かれたのか、という実生活にまったく役に立たない関心である。たとえ正解がわかっても「なるほどそうか」でおしまい。得られた知識を活用する場面などない。
もし仮にこれを元にドイリーをデザインして編んだとしても、まあ、使い道はないので結局は同じなのだが。
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