季節が変わったんだか変わっていないんだか、という気温の変動がようやく落ち着いてきた頃、うちのベランダの植木はよっしゃ伸びるぞとでもいう感じで一気に成長する。わたしは蔓性の植物が好きなので、植木鉢は単にもさもさになるだけでなく、葉を茂らせた蔓が四方八方に飛び出す。
それで剪定が必要になるわけだが、基本的に蔓の先は新しく出てきた部分なので、つい剪定しながらよさげなものをより分け、そして別の鉢に挿してしまうのだ。こんなことをしていると際限なく鉢が増えるぞ、とわかっているので時には剪定したものをすべて捨てる。
しかし、蔓や葉をビニール袋にまとめながら、ベランダのすぐ近くの地面(うちは1階)の土の地面に挿してしまおうか、と頻繁に思ったりする。やらないけど。でもやりたい。
で、今回は長いこと育ててきたワイヤープランツの鉢ふたつが去年の夏あたりから沈黙したままなので、久し振りに数本の蔓を挿して増やすことにした。ちなみにこの鉢はどちらも、元は挿して増やしたものである。
そのついでに土も新しくする作業をすることになるが、それは今度の週末にやることにして、とりあえず数本を花器に挿すことにした。切った蔓は土に挿せばそれで充分なのだけれど、しばらく水で育てて充分な長さの根が出るまで室内に飾るのも悪くない。……数年前に同じようにしたポトスは、充分すぎるくらい根が出たのに未だ室内で水で育っているが。
こういうときのために使うのは、ジャムの空き瓶。意図して取ってあるわけではなく、なんとなく捨てそびれていたものがこういうときに目に入って花器に変身する。
本当は花器としてデザインされた器を使った方が植物も映えるのだろうが、廃品利用が習い性になっているのでそういうものに目がいかない。それなりの厚みがあって安定感もあるジャムの瓶で充分に事足りている。
先月まではこの瓶にはムスカリが挿さっていた。そのとき、しばらくしてから「カバーがあったらいいかもな」と思ったので、今回はワイヤープランツを挿す前にカバーを編むことにした。
使った糸はDMCのSensoという昔のコットン糸。細い糸が絡みついていて、どういう編み地になるのか想像がつかない。よくわからない糸は、こういう小物で試してみることが多い。
瓶のカバーは消耗品なので変でもいいや、とも思っているのだが、そういえば戯れに編んだキッチンツールを入れている瓶(コーヒーの大瓶)のカバーは10年くらい使っているな……消耗品じゃないような気がしてきた。でもまあいいや。 編み図などないので適当にやる。このくらいの太さなら3/0号のかぎ針かなと適当に選び、くさり編みを編んで瓶の底に合わせながら目数を適当に決め、こま編みを1段編んでみたら問題がなかったのでそのまま進める。
底から胴に向かって瓶が広がっているので増し目が必要になったが、ここも勘。作り目が35目なので、5目ごとか7目ごとに増やせばいいや、と根拠不明の発想。広がっている角度をみて、5目ごとの方がよさそうだなとこれまた謎の結論を出して編んでいく。
でも、だいたいこんな感じでやってもわりとどうにかなるのが常なのだ。勘で決めた増やし方で1段編み、瓶に合わせたらばっちり。次の段も増し目が必要で、いま5目ごとに増やしたから次は6目ごとだなとまた理由がわからないことを考えて、それで編んだらうまくいく。
瓶に合わせて確認しながら編むのはいいのだが、どこで増し目をするかという発想はいったいどこからくるのか。論理的に考えたわけでもないのになんでそれで合う?
増減のない胴の部分はこま編みだけで2段ほど編んでみたら、ようやく「ちょっと大きいな」という問題が持ち上がる。
このくらいなら別にいいかなとか、編み進めれば安定するかもしれないと期待をして編み進めてみるが、そのうち糸の編みにくさが気になってきた。コットン糸に慣れていないうえに細い糸が絡んでいるという、めんどくさい事態になった。
楽をしたい。
こま編みを楽にするためにわたしが思いつくのは、こま編みとくさり目を市松模様のように編むという方法である。こま編みとくさり目を1目ずつ交互に編むうえ、奇数段はこま編みスタート・偶数段はくさり目スタート(逆でも問題なし)なので、こま編みを編む際は前段のくさり目を束にすくうだけで済むのだ。
この単純な編み方を知って以来、こま編みだけで編むのが面倒でかつ強度を必要としないときはこの編み方をする。
というわけで既に編んだ胴部分の2段をほどき、上記の方法に代えてやり直した。すると、こま編みだけで編んでいたときは瓶から少し浮いていたのに、この編み方では瓶にぴったりになった。なるほど、この編み方はサイズも少し小さくなるのか。いいことを知った。
胴部分を編みながら、最後はどうしようと考えていた。瓶の上部も下部のように角度がついており、首に向かって細くなっていく。ここの角度は底とあまり違わないように見えるので、底を編むときの逆に進めばいいのだろうが、コットン糸なので着脱に支障が出そうだ。
ならば上部の角度がつき始めたあたりで編むのをやめればいいのだが、なんとなく縁に工夫を凝らしたくなった。
かぎ針編みで縁編みというと定番はピコット編みだろうか。想像してみるがなんだか冴えない。他に何があるか考えてみるが知識などないので、レース編みの本をぱらぱらやってみた。が、ものがものなので、縁周りはけっこうゴージャス。そこまでやらなくてもいいな。瓶から浮きすぎると蔓の邪魔になりそうだし、シンプルでいい感じの程よいものはないか。
……そうか、こういうときのために模様集や図案集のようなものが役に立つんだな。
当然そんな本は持ち合わせていないので、しばらく考えて「こま編み×1・中長編み×1・長編み×2・中長編み×1・こま編み×1」の繰り返しでやることにした。これがわたしの精一杯の想像力である。いかに今まで単純な編み地しか編んでこなかったか、ということがよくわかる。
ともあれ、適当に編んだ瓶カバーは完成した。
ジャストサイズである。考えに考え抜いた縁編みは控え目すぎて、「まっすぐ編めないがゆえに却っていい感じに波打った」とも解釈できそうな微妙なものだが、にぎやかな色彩の糸なのでこのくらいでいいだろう。所要時間は2時間。ちなみに、アヲハタの150gのジャムの瓶である。つまりまた同じようなものを編む可能性があるので、きちんとメモをとった。
適当に編んでもなんとかなるのが、自分の場合はかぎ針編みだと改めてわかった。棒針でこんなことはできそうにない。もし棒針でこれを編むとしたら、作り目の数を決める段階で挫折しそうだ。
ただ、思いつきで適当にやってなんとかできるといっても、着るものだったらどうなるんだろう。今までかぎ針で着るものを編んだことはないので、どうなるのかわからない。
ワイヤープランツとヘデラ(これも今の時期はもさもさ)を生けた瓶を飾ってみた。
トイレの小窓。 この程度でも、人生でいちばん洒落たトイレになった。
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