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糸割れという天敵

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 編み物をしていていちばん嫌なのが糸割れだ。かぎ針の先を引っかけたのにうまく糸を引き出せないとか、棒針にかかる糸が妙に細いとか、そういうときは決まって糸が割れている。
 たくさん糸割れをした編み地は間違いなくへたくその証拠だよなあ、と思ったので、今は糸割れを起こさないよう気をつけている。昔はあんまり気にしていなかったので、少しは進歩しているのだろう。「要はまともなものが完成すりゃいいだろ」という面では少しも進歩していないが。微妙に退化している気もちょっとする。

 糸割れと無縁でいられるのはレース編みのときくらいだ。といってもダルマの20番レース糸では、撚り合わさった糸の一部を引っかけてしまうことも稀にある。やらかしてしまうとけっこう辛い。引っかけてしまった撚りの一部を元に戻す努力をしても、いつまでもそこだけ変な感じがする。ウールだとうまい具合にごまかしてくれるのだが、コットンはそうはいかないということか。
 しかし金票40番なら皆無である。細いし、撚りはきついし、金票40番で糸割れを生じさせる方が難しいのではないか。糸始末をするときも、意識的にならなければ糸を割らずに済んでしまうのだ。だから金票40番で編むときは気兼ねなくがつがつ編める、というわけではなくて、ごまかしがきかないから努めて冷静に編まなければならない。うまい具合にいかないものだ。

 ところでレース編みをするときは、かぎ針で編むときと違い、小指に糸をひと巻きしている。かぎ針ならば親指以外の4本に互い違いに糸を渡せば保持できるのだけれど、糸が細いとうまくいかないようだ(ランタンモールのような変わり糸は別だが)。

 しかし中断していたキウイのあみぐるみを編むとき、どうやら無意識で小指に巻いていたらしい。
 それに気がついたのは、指定糸(ナイフメーラ)の糸割れがすさまじかったからだ。

 こま編みではなく中長編みの玉編みがメインの編み地なので、「中長編みの玉編み」ってどんなだ、と調べるところから始まった。それはいい。立ち上がりの目のあたりの記号の解釈に悩んだことも、それもいい。しかも中長編みの玉編みがめんどくさいし編みにくいとわかったが、それもいい。
 そんなことより、2回くらい軽く練習してほどいた糸で編み始めたら、もうめちゃくちゃに糸割れするのが大問題だった。

 内藤商事のあみぐるみシリーズは都合4匹(うさぎは3羽か……わには1匹? 1頭?)編んでいるが、いずれのデザインでも使用されているナイフメーラがけっこう苦手だ。アクリル混の糸をあまり使わないせいか、糸の一部を引っかけたり糸割れしたり、なかなか編みにくい。
 ただし4匹とも丁寧に編むことを心がけていたので、冷静に編んでいるときはさしたる問題はなかったと思う。トラブルが起きたときはだいたい気がゆるんでいたのではないかと。
 でもまあ、わざわざ「編みやすい」と思う毛糸ではないのは確かだ。

 それでキウイだが、ほどいた糸で編み始めたら糸割れがすごいというか、どんどん撚りがゆるくなっていくようで、これで中長編みの玉編みなんかした日にはまとめて糸を引き出そうにも、かぎ針の頭が引っかかって引き出せやしない。
 なぜこんなにひどいのかとしばらく毛糸を眺めて考えて、ほどいたときに撚りがゆるくなったのではないか、と思った。しかも少し毛羽立っていて、ますます編みにくい。
 そういえば、編んでいるうちに糸がぐるぐるねじれるという悩みに対して「糸を小指に巻いているからでは」という指摘を見かけたことが何度かあった。今回はその逆のことが起きて撚りがゆるんでいるのでは?と推測したが、事実はともかく小指に巻いた糸を外してみた。

 だがそれでも、目の途中で引き出す糸を長めにしても玉編みひとつを最低2回やり直す始末で、自然とかぎ針がナイフ持ちになっていた。敢えて固く編むとき以外に持ち方が変わることはないのだが(かぎ針の持ち方は勝手に変わる)、おそらく何度も糸が引っかからないようにかぎ針を動かしているうちに手首が痛くなってきたのだろう。

 さすがに「イライラしながら編み物やりたいわけじゃねえ」と思ったので、もったいないが、ほどいた部分の糸を切って捨てた。パーツを編みつけるときに使えるかもしれないと思ったけれど、イライラした原因なのである。撚りがゆるくて少し毛羽立っていて、編みにくいことこのうえない状態なのである。潔く捨てるしかない。

 それでやっと落ち着いた。中長編みの玉編みは編みにくいが、もうイライラしていないので「どうすればいい具合に編めるか?」と試行錯誤できている。

 ちなみに最終的にどういう編み方に落ち着いたかというと、最後の中長編みを編むときにかぎ針にかけた糸を、針先を目に入れる前にぐいっと引き寄せた。
 図解すると、まずはじめにかぎ針の先に糸をかけて
 かけた糸を指でおさえて
 おさえた糸を右に寄せる。
 おさえたままでかぎ針の先を目に入れて糸を引き出す。
 ときどき裏側で糸がややたるむ気がしたけれど、こうすることで最後にまとめて糸を引き出すときに引っかかることは激減し、なんだか編み地もふんわりしているというか、厚い。なるほどこれは丸々としたものにぴったりだ。
 そして、今後はナイフメーラで何かを編むときの試し編みは、使った糸を捨てるつもりでやろうと思った。ほんと、イライラするために編んでるわけじゃねえぞ……疲れた。