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頼れる手芸屋

2024/03/29
 手芸専門店の大手・ユザワヤでも見つからなかったかぎ針だが、先の土曜日に無事に購入した。
 これでうちには2/0号から10/0号までのかぎ針が無事に揃い、もうなんでも来いである。なんだろうこの根拠のない万能感……。

 購入したのは以前の記事にも書いた通り、サンキという謎のチェーン店である。
 そもそもわたしが最初にこのサンキを訪れたのは、高校に通っていた頃。商店街のアーケードの外れに「いかにも昭和」な構えの店があった。
 当時はもう平成になっていたとはいえ、つい最近まで昭和だった頃なので「ちょっと古めかしいな」くらいの印象だった。それが数日前に訪れた際も当時とほぼ同じ様子で、古めかしいを通り越して「築何年だろう」という疑問を抱いた。

 ちょうど実家に帰ったので母にその話をしたところ、わたしが高校に入る何年も前から既に今の建物だった記憶があるという。
 アーケードの方には洋服などを扱う店舗があり、そちらは何度か改装してそれなりに小奇麗なのだが、手芸用品とカーテンを取り扱っている方の店舗はどういうわけだか変わらない。

 そんな店だが、なんだかびっくりするほど手芸用品が揃っているのはどういうわけだろう。
 探し求めていたクロバーのかぎ針は、グリップなしのものはもちろん、グリップがあるものも両かぎ針もジャンボかぎ針も全サイズ揃っていた。それだけでなく、ハマナカの編み針も同じくらいの面積を占めてずらっと並んでいた。クロバーもハマナカも棒針かぎ針ひととおりありますぜという様相だった。

 別糸の作り目をする際に使う糸やブロッキング用のピン、ニット用まち針など、関連資材も豊富である。チューリップのアミコレ商品もけっこうな種類が置いてある。
衝動買いを制止できずに購入

 それだけでなく、ラグ用の道具や資材(確かクロバー製のどれかだったような)やヘアピンレースの用具、あとたぶんビートル手芸の用具まであった。
 人間ドックの帰りに立ち寄ったので細かいところまで気にする余裕がなかったのが惜しい。半日なにも食べないと頭が働かなくなるので、まあ、勢いで散財せずに済んで良かったのかもしれないが。

 とにかく、ネットショップで送料に頭を悩ませずとも、電車で数駅のサンキに来れば買えるのである。
 何これちょっとおもしろそう、で迂闊に手出しできる世界が近場にあるというのは、幸せなんだか不運なんだか。

 と、これだけ編み物や毛糸を使う手芸に関する用具が揃いに揃っているのだが、ならば毛糸の方はというと、たぶんしょぼい部類に入る。
 しょぼいというのは、いま流行りのあれやこれがないが故の表現である。Opalなど影もかたちもなく、輸入糸といえば内藤商事のエブリデイなんとか(トルコ製)くらい。同じ内藤商事のナイフメーラ(イタリア製だったっけ)が置いてあるのはちょっと個人的に嬉しかったりするが、基本は国内メーカーの毛糸で、おしゃれな輸入糸がよりどりみどりではない。ハマナカの定番がずらっと並んでいて、あとは昔の手芸店の店頭によくある10玉いくらな毛糸。マーノクレアールとかではほぼお目にかかれない毛糸たちがたくさん、である。

 だが流行りの毛糸でなければ質が落ちるというわけでもないのが毛糸というもので、サンキで目についたのがダイヤモンド毛糸やニッケといったメーカーの毛糸だった。
 聞いたことのないメーカーのカラフルなアクリル毛糸に混じって、ニッケビクターの純毛が極太・並太・中細と豊富なサイズ展開で揃っていたりする。パリパリと音をたてるビニール袋に10玉ずつ入った状態で(口は開いているので、1玉単位でも買えるのかも)。色は地味。語弊を恐れずに云うと、おばあちゃんカラーだったりする。

 けれども、目の前にあるのは毛糸である。おばあちゃんカラーでアバンギャルドなニットを編むのもアリである。明るいベージュやパステルカラーのほんわりほっこりな服が大の苦手な身にはもってこいの色ではないか。

 盛大な妄想をしつつも空腹に耐えかね、かぎ針と棒針キャップだけ持ってレジに行った。サンキは近所。いつでも妄想を現実化することは可能である。もっと頭がはっきりしているときにまた来るのだ。とにかく、こんな近場に頼れる手芸屋を見つけて万々歳である。 

 調べてみたらサンキはなんと全国展開しているらしいのだが、わたしがここで話題にしているのは千葉県の柏駅から徒歩で行けるサンキである。アーケードを通り抜けて突き当たりの道を渡って右に進んだ、柏モディの裏手にある店である。手芸に限らず、どうしてこう良い店というのは外れの方にひっそりと隠れているのだろう。