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「基礎」とは

2024/03/29
 理屈がわかんないと駄目だときのう書いたばかりだが、理屈だけではわからないこともある。
 その最たるものがこれ。
 棒針で作り目をするときに最初に作る結び目の作り方である。

 子供の頃に母親に編み物を教わったものの、めんどくさいがために長らく興味を持たずに生きていて、何を思ったか急に再開したのが2005年頃だったと思う。
 近所の本屋でかぎ針編みの小物の本を見かけ、雰囲気の良い本だったので購入し、それでかぎ針で小さなバッグを編んだ。
 思いのほか編み物が楽しかったので、もちろん棒針もやってみようと思った。
 それで買ってみた雑誌(確か)の「編み方の基礎」みたいなページに載っていたのが最初に載せた図である。

 指でかける作り目のやり方は実はなんとなく記憶にあったのだが、最初の結び目は覚えていなかった。
 それで本を見たら載っていたのがこれである。
 どう糸が棒針に結びついているのかは確かに理解できる。糸がきっちり結びつくのだなということはわかる。

 この図の通りに糸を床に置くのにものすごい時間を要した。

 なんで編み物をするのに糸を床に置いたのかというと、そもそも棒針にこの通りに糸をかけるなんてできなかったのだ。落ち着いてやればできそうだが、基本を謳うところにいきなりこんな難しい図だけでおしまいになってて焦った。
 ほんとに、この図の次にあったのは、左手に糸をかけ右手に持った棒針で糸をすくう図だったのである。

 こちらは糸に関する図解にほぼ接する機会もなくきた編み物初心者である。戸惑うのは当たり前。だから床に置いてやってみた。
 「ものすごい時間を要した」と書いたが、実は図の通りに再現できた記憶がない。一度くらいはできたかもしれないが、その一度で疲れ果てたと思う。

 なので、最終的にはたぶん適当にやって済ませたんだと思う。ちょうどそのときに編もうとしていたのがフリンジ付きのマフラーだったので、どうせフリンジで隠れて見えなくなるからいいやと考えたに違いない。いやもう、絶対そう。

  ※母親に尋けばよかったんじゃねとたったいま気がついた。結び目の構造の図を見て結び目を作れなかった時から20年くらい経っている。20年も経ってこんな単純な解決法に気づいたことに呆然としている。

 ……ともあれ、世間はこんな図で理解して編むのかと思った。
 いや、そんなはずねえだろとも思った。
 世間がどうやっていようと、これで本当にいやになってしまった。こんなのやってられるかと思った。
 いやほんとやってられんわ。くそめんどくさいことこのうえない。いま試しにやってみたけれど、3倍もの長さを余らせてこの輪を作るとかやってられるかと投げ出した。

 なので、マフラーを編んだら棒針編みはやらなくなった。切実に編みたいものが他にあれば別の説明をしている本を探したのだろうが、ものすごく嫌気がさしたので、棒針で編みたいものがまず発生しなかったわけだ。
 経験というのは本当に恐ろしい。たった一度のことで、長きにわたって関心を失せさせるのである。

 それでいま靴下を編んでいるのもまことに妙なことだが、さすがにこれだけ時間が経ち、いろんなことがあったので忘れていただけである。あの図をきれいさっぱり忘れ、靴下編んでみたいなと思ってマルティナさんの動画を観ながらあっさり結び目を作った。
 あの図は本当に、まったく、ぜんぜん、思い出さなかった。

 セーターの簡易編み図の数字が意味不明で、基礎本を開いてみるまでは。
 「まだ読んでいない他のページの内容もこういうレベルに違いないから捨てようかな」と思った。読んでもいないのにと思いつつも、だって最初の最初がこのレベルだぜ? こんな書き方だよ? と。
 これ以降もこの調子で棒針クソめんどくせえと思わせるような記述が続くんじゃないのかと疑いたくもなる。

 ちなみにうちにもう一冊ある基礎本に至ってはこうだ。
 ほんとさ、なんでどいつもこいつもこうなの。
 「基礎」ってなに?

 今も昔もこの件については同レベルで腹を立てている自分にびっくりだが、現在、棒針の作り目をほぼすべてかぎ針で編みつける方法でやったり、まれに指でかける作り目をする際に結び目を絶対に作らないのは、この経験のせいではない。


 と思いたい。