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レースいろいろ

 レース編みに関心がわいてからずっと欲しかったレース専門の本を買った。
 だいぶ昔の本の改訂版のようだが、改訂版の発行日以降しか載っていないので、改訂前のものがいつ発行されたのかがわからない。普通は「初版発行日→改訂版発行日→改訂版何刷発行日」という具合に載っているものだと思うのだが、それはむしろ特殊なのだろうか。同じ出版社の同じ作者の同じ本で、途中で翻訳者が変わってもISBNが同じだったりするし、出版界のルールはよくわからん。
 とりあえず、改訂前の本はそれなりに古いものなんじゃないだろうか。
 興味関心というのは恐ろしいもので、レース針を使ってレース糸でドイリーを編んでいただけなのに、無数にある「なんとかレース」ってどんなものなんだろう、と好奇心の泥沼にいとも簡単に顔から突っ込んでしまう。そして新しいなんとかレースを編み始めたらあとはもう、人生が300年くらいないと足りないような日々がやってくる。怖いなまじで。

 ただ、今回に限っては「棒針を使うものとボビンレースは無理」という前提がある。

 棒針のレースについては云うまでもなく、棒針編みが苦手だという意識があるからだ。編み方そのものは難しくないけれど、「説明が簡潔すぎるうえ、理解できる解説が見つけにくい」というどうしようもない難関があるので苦手だと断言するしかない。図と説明文が一致しないとか、調べれば調べるほど違う説明が出てくるとか、そもそも本に載っていないし検索しても出てこないとか、こと棒針編みに関しては変なことばかり起きるのだ。

 それからボビンレースは、熟練者とおぼしき人が驚くべき速さでボビンを左右に入れ替えて、しかも入れ替える位置や本数が頻繁に変化する(細かい部分は違うかもしれないがそう見えた)という短い動画を見て、びびってしまった。
 そこで「すげえ、かっこいい、やってみたい」となる可能性もあったと思うのだが、まあ……ゆっくりやってもできそうにないな、と思わせる複雑さを感じてしまったのだ。ほんとあれは、何が何やら、どうなっているのか、さっぱりだった。

 そういう意味ではタティングレースも似たようなもので、右手を左右にただ動かしているだけのように見えて、これまた何が何やらである。動かすときに何かが起きているに違いないのだが、何がどうなっているのかさっぱりわからないのはボビンレースと同じ。

 ……なのだが、自分でも不思議なことにタティングレースは自分でもどうにかできそうな気がした。
 右手が左右に動いているのはわかるけれど、手に持ったシャトルで何をしているのかがさっぱりわからない。なのに何かができていく。この点については、糸が交差するのがわかるボビンレースの方が明確で、タティングレースは糸の細さもあるのか何が起きているのかちっともわからないのだが。

 そんなわけでしばらく前にこういうものを手に入れた。
 雑誌とその付録。タティングシャトルと糸。
 初心者向けキットでも探せばいいのに、それなりの量の説明が欲しいので、最低限の用具が附属した本を探していたらここにたどり着いたというわけだ。

 この雑誌にはタティングレースのことだけが載っているわけではなく、他にいろんな手芸が紹介されていて、作り方が載っている作品もある。自分の場合はまず付録が目的だったのだが、掲載されているスウェーデン刺繍を刺してみたくなり、読み物を楽しんだり、全方位で楽しめているわけで……関心が広がりすぎたような……入門キットでも買った方がましだったかも、と少し思わないでもない。

 まあいいや。どうであれ遂にタティングレースに挑戦(する準備ができた状態)である。Instagramで動画を見ても何がどうなっているのかさっぱりだったが、この雑誌掲載の説明をひととおり読んだらなるほどそうかと思うより先に不安になった。なんというか、フリーハンドな感じがとても不安。

 自分のわかる範囲でいちばん簡単な手芸といえば、クロスステッチである。どのへんが簡単かというと、図案のとおりに布の升目に糸を刺していけばきちんと模様ができるから。たとえ裏面の糸の渡り方が適当であっても、表の模様ができればまあだいたいOKである。
 実は編み物についてもわたしはこれと似たように考えている節があって、かぎ針編みだろうと棒針編みだろうと、「次はここに針を入れて糸をかける」という具合に場所が明確なのでやれている。

 いちばん苦手なのが、その気になればいくらでも的外れな場所に針を刺すことができる裁縫やフランス刺繍。縫う場所に線を引けばいいとか、布に写した図案の線に沿って刺せばいいなどと云うが、針は線を外れて刺す余地が無限にあるのである。多少ずれてもOKだと云うが、線の右側にずれ、左側にずれ、と不規則にずれる余地があるので結果はガタガタ。
 なぜ縫い針や刺繍針というものはあんなに先端が尖っているのに、布の織り糸の上を滑って意図しない場所に突き刺さってくれるのだろうか。我ながらおかしいんじゃないかと思うのだが、どんなになめらかな布地であっても、針の先端が織り糸の上にあたると針先が滑るのだ。図案の線が織り糸の上にあったら、きちんと織り糸を貫くよう布地と針先の角度をかなり狭めて慎重に刺さねばならないという、面倒このうえない作業を要する。
 小学生の頃からずっとこうだ。意図した場所に神経質にならずに針を刺せるのはフェルトだけである。

 そんな人間に、目印がないタティングレースなんかできるだろうか。ちなみに縫い物をするときの玉結びは意図しない場所で玉になってくれるし、縫い終わりの玉止めのときは針に巻きつけた糸から針を抜いて糸を引くと、高確率で糸がぐしゃぐしゃとからまる。

 それなのに結び目で目をつくるタティングレースって……無理がありすぎるような……