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正気じゃないドイリーを編む

 放ったらかしの編みかけをどうにか進めろよ、と我ながら思う。
 が、そこまでの気力が出ないんだよな……というわけで、しばらく前に試し編みをした小さなドイリーを20番レース糸とエミーグランデで編むことにした。
 まあ、ドイリーだって編むための気力はそれなりに必要なんだけどな。2種類のデザインを20番と40番で都合4枚編んだだけなので、レース編みのセオリーみたいなものはまだまだよくわかっていない。
 かぎ針であみぐるみやかごを編むときの延長で、円に編んでただ広げていくだけ、という感じ。もちろん模様をつくっていくので、そのへんにレース編み特有の「よくある編み方」があるのだろうが、「こうきたら次はこういうパターンかな」という推測ができるレベルではないのだ。
 だから編み図なりパターンなりをしっかり読んで追っていくのが精一杯で、「こういうときにこうするとこうなる」はその場ではわかっても、果たして自由に編むときにこれを引用できるかどうか。「まじかよ正気かよこんなの」とびっくりしているだけだもんな。

 「正気かよ」という表現は一般的によろしいものではないと思うが、わたしがこの表現を使うときは「まさかこんなことをするとは。すげえ。その発想はなかった。おもしろい」という具合に好意的な驚嘆としてだ。否定的な意味合いで「正気かよ」を使うことはなくて、そういうときは「頭に虫でもわいてんのか」といった感じの表現を使う。
 で、今回そんな良い意味での「正気かよ」をもたらしてくれるのは、このパターン。
[free] 100 pieces of crochet_007 | Crochet Kasaishi

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英文パターン修行100 pieces of crochet の7作目をお届けします。全12段。 無性に「盛りに盛った」作品が作りたくなり、ボリューミーなモチーフが完成しました。いつもより、ちょっと糸と時間が必要ですが、編み終えたときの達成感

 ドイリーといってもたとえばパイナップル編みであれば、正気かよとまでは思わない。なるほどこう展開するのか、と感心はするけれど驚くところまではいかない、と思う。
 しかしこのデザイナーさんは引き上げ編みを駆使して立体感のあるものを仕立てるわけだが、狭い場所に引き上げ編みをもりもりぶち込んでくる。編む前に編み図やパターンを確認して「そんなに入るか?」とか「ここに入るのか?」と驚くのはもはや通常運転。
 ましてや今回は中央に Crochet Button なるものがあるので、半分程度の段数を編んだ段階でこんな有り様。
 中央のボタンを抜きにしても、引き上げ編みをこれでもかと投入した直後に足を増やすような段が2段も入るので、嫌でも高さが増す。正気じゃねえ。

 おまけに、せっかく編んだ段が次の段を編むことでほとんど隠れるセクションがふたつもある。
 まず、長編みをたくさん編んだ段が、引き上げ編みの大量投入でほとんど隠されてしまった(写真は途中経過)。
 長編みの足元がちらっと見えるくらいにまで隠されているという……長編みはただの土台か。
 そして段の最初を編んで心底びっくりしたのが、シルバーっぽい糸で3段編んだ直後の段である。
 やっぱり青メインのところにこの色が入るといいよなあ、とうっとりしていたのだが、次の段を編み始めたら、
 みるみるうちにほとんど隠れていく。

 正気か。

 いやほんとちょっと待ってシルバーの糸で編んだ3段の意味とは。

 って、青の引き上げ編みの間にちらりとシルバーが見えるデザインということか。

 いや、でも3段もちまちまこまごま編んだのに挙げ句の果てがこうなるの?

 こいつはドイリーなので最終的に引っ張ってスチームを当てればまた違うのかもしれないが、現時点の状態があまりにささやかすぎてなんというか、狼狽した。シルバーの長編みがほぼ土台にすぎなかったこと以上に焦った。

 レース編みの世界すげえな。
 いや、このデザインがすごいのか。
 どっちにしろびっくりだ。