編集

糸始末の話

 糸始末ともやしのヒゲ取りとどっちが面倒かと問われれば、迷うことなく後者だ。ちまちまやってられるか!というより、別に食えるんだからそのままでいいじゃん、という考えなので面倒という以前に必要性がない。
 だが編み物その他の糸始末は基本的に必須で、しかし「糸始末が嫌い」という意見はよく見かける。

 面倒くさい気持ちが高じて「糸を切らない連続モチーフ」が発明されたのではないか、と思う。同様に、糸をつなぐ様々な方法というのも事の発端は同じなのではないかと思っている。ウールであれば糸端を水で濡らし、両掌ではさんで撚る。それ以外の素材ならば糸端をとじ針に通し、つなぐ糸端に通す。
 わたしはウールの毛糸を使うことが多かったので、糸端をはさんでごりごりやる方法を知ってからは糸始末の手間が激減した。あまりに簡単で便利なので、大きいものを編むならウールが最適だなと思ったりしもした。
 だが今ある編みかけはすべてウール100%ではない毛糸。とじ針を使って糸をつなぐ方法は面倒な印象があるので試していない。だから、今後けっこうな量の糸始末が待っているはずだ。きちんと編み上げればの話だが。

 しかし、グラニースクエアをたくさん編んでいたときは糸始末が楽しかった。いかにうまく糸端を隠すか、を考えて試すのが楽しかったのだろう。
 それでも編みかけの大きなブランケットの糸端(最終的に今ある量の3倍くらいになる見込み)を思うと、同じように楽しんでやれるかどうかはさすがに疑問だ。
 ……縁編みをするときにうまく隠しちゃおうぜ、と思ってもいる。

 そもそもわたしはかぎ針を使うときは、糸端を編みくるむのが習い性になっている。余った糸端がぜんぶ隠れるまでひたすら編みくるんでいく。適当なところで切るのすら面倒だから。
 ただしレース編みではこれができない場合が多い。透かし模様のようになっているのが前提なので、うまい編みくるみ方が思いつかないのだ。でももちろん、いかに目立たないよう糸端を隠すかを考えて楽しめているので問題なしだ。

 というわけで、糸始末に関して困ることはまずない。だから嫌いになりようがない。

 それがタティングレースを始めたら、これが大問題になってしまった。

 そもそも糸端は編みながら隠すか、つないで済ませる方法しか知らないのである。だというのに、タティングレースでは結ぶのが前提。おまけにボンドで結び目の端を固定しろとまで本には書いてある。結んだうえにボンドかよ。ずいぶん雑だなおい。
 それが嫌で、レース編みと同じようにとじ針で始末をしようとしたらしたで、具合のいい場所が見つからない。タティングレースは糸に糸を結びつけていく構造なので、そこにもう一本の糸を通すことが難しいのだ。
 かといって目の一部に入れていく方法(本に載っていた)も出来が微妙に思えるし、何よりもめんどくさかった。やっていて「やりたくない」と強く思った。

 ならばもう諦めて、なるべく結び目が小さくなるように結ぶしかない。本には「こま結び」をするように書いてあるが、結び目の名前など固結びくらいしか知らないわたしは初耳である。
 こういう輩がいることを想定してなのか、オリムパスのWebサイトでこま結びの図解を見つけた。
(出典:オリムパス「タティングモチーフ」内「編み図ダウンロード」)

 糸をからめる図の理解が大変に苦手、いや苦手どころか脳が拒否する仕様になっている自分にとって、この図は辛い。
 スタートの図はどのように糸をからめたらこうなるのか。まずそこからわからなくて、糸を手に持ち図のとおりのかたちにからめてみようとするが、どうにも脳が悲鳴をあげてしまってだんだん思考がぼんやりしてきた。似たようなかたちになっても、たった今やったばかりの手の動きが記憶に残っていない。
 かつて「棒針編みの基礎本」で、棒針にどう糸が巻き付いているのかさっぱり理解できなかった影響なのか、と思った。
「基礎」とは | ハチドリの記

「基礎」とは | ハチドリの記

 理屈がわかんないと駄目だときのう書いたばかりだが、理屈だけではわからないこともある。  その最たるものがこれ。  棒針で作り目をするときに最初に作る結び目の作り方である。  子供の頃に母親に編み物を教わったものの、めんどくさいがために長らく興味を持たずに生きていて、何を思ったか...

 たかが図だぞ。ここまで糸をからめる図を嫌い抜けるのは何かの才能なのか、それとも病気か。

 結び方をどうにかしなければタティングレースどころではないので、論理的に事をどうにか片づけることにした。
 論理的といっても大したことではなくて、そもそもこの結び方がなんなのか、を考えた。まさかタティングレース特有のものではないだろう、と仮定したうえで、ではこの結び方がどのような場面で使われるか。
 真っ先に思いついたのが軍隊。そこから更に、もうちょっと普遍的なものは何かと考えて連想したのはキャンプ。

 それで検索したところ、結び目をつくるまでの過程が丁寧に図解されたものを見つけた。
「かた結び」とココが違う!つなげるロープワーク「本結び」の基本。 | ロープワーク 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル

「かた結び」とココが違う!つなげるロープワーク「本結び」の基本。 | ロープワーク 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル

テントやタープを張ったり、ランタンや食器を吊り下げたり、自分の体の安全を確保したり、ロープワークはアウトドアのあらゆるシーンで僕らを助けてくれる。 こちらが本結び! 本結び 複数のロープを連結するときのほか、1本のロープでモノをしばるときに

 やっと理解できた。編み地に沿うように結び目を作るためには糸の引き方を考えなければならないが、それさえうまくやれるようになれば問題はとりあえず解決だ。

 とりあえず、結ぶ。
 それから結び目から出ている糸を、適当なところに通す。
 そんで切る。
 ……わからん。適切なのかわからんな、これ。
 編み物はわりと「まあこんなもんだろ」で満足できるのに、タティングレースはこれまでの人生でまったく接点がなかったので、どのくらいで「こんなもんかな」と納得できるのか。他人の作品を見てみないとわからないな。